自分は、7年前の53歳の時脳出血で倒れて、以来その後遺症で右片麻痺(右半身不随)で車椅子のお世話になっております。
実際に経験してみないとなかなか解らないことなのですが、片手しか使えない片麻痺者にとっては車椅子は非常に漕ぐ腕の負担が大きいためせいぜい100mぐらいの移動にしか使えません。さらに、ほとんどの日本の道路は雨水排水のため道路の中央部分が高い「かまぼこ」構造になっています。そのため、大きな4車線道路などでは車椅子で登り傾斜を漕ぎ道の真ん中に行き着くまでにかなり時間がかかり、信号が変わるまでに渡り切れないこともしばしばあるのが現状です。
ということで、ここ数年は余程のことがない限り自分一人での外出はできませんでした。ところが、1ヶ月ほど前の昨年12月9日に、運よく「Whill C2」という発売されたばかりの新型電動車椅子を手に入れることができました。
そこで、今回はこの電動車椅子「Whill C2」についてご紹介します。
一般的な車椅子の種類と主な特徴は?
この記事をご覧になっている方の中でも「車椅子そのもの」についてあまり知識がない人も多いと思いますので、まず最初に車椅子の種類について簡単にご説明いたします。
今や高齢化社会真っ只中の日本では、様々な種類の車椅子が溢れていますが、基本的にはこれらの車椅子は次の3つのタイプに大きく別れます。
1.自走用車椅子
利用者がハンドリムという後輪タイヤの外側についている輪を自分の手を使い漕いで走行する、つまり利用者自身が自分の意志で移動ができるタイプの車椅子です。このタイプは、小さな力でも動かしやすいように後輪の大きさは約20~24インチと大きめでまたかなり安定感もあります。そのため、街中でも低い段差であれば両腕が使え腕力さえあれば乗り越えることができます。ただ、自分のように片腕しか使えない片麻痺者には病院内や美術館などの建物内部での短距離移動ぐらいにしか役に立たないというのが現実でしょう!
2.介助用車椅子
利用者が車椅子に座りそれを介護者が後ろから手押し操作するタイプの車椅子で、病院や介護施設などでよく使われています。このタイプの車椅子は、介助者がいないと利用者だけでは移動することはできません。後輪の大きさは12~18インチと比較的小さめのものが多く、通路の狭いところなどでも小回りが利くという特徴があり、自走用の車椅子よりも軽量でコンパクトです。基本的に介助者の使い勝手を重視した設計となっています。
3.自操用電動車椅子
これは今回自分が手に入れたタイプのもので、人間の力ではなくバッテリー電源を使いその電力で動くタイプです。まあ、ゴルフ場にある電動カートのようなものですが、操作はゲーム機のようにジョイスティックとボタンで行います。片手を自由に動かせればいいので、自分のように右手が全く動かない片麻痺の人でも利用することができる優れものです。
以上のように車椅子は3タイプに別れていますが、やはり利用者が自分の意志で好きなところに移動できないとつらいものがあります。例えば、介助用車椅子でヘルパーさんにスーパーに買物に連れていって貰った時でも、「○○が見たい。それから××も見たい。」といちいちお願いしなければなりません。これは、自分も介助者も非常に面倒であると同時にストレスでもあります。そのため、ここ1年ぐらいはコロナ騒動も重なり、通院以外は買物などの外出はほとんどせず、ネットスーパーやネットフードデリバリで済ますようになってしまいました。まあ、消極的引きこもり生活ですね。
このように人と接することが極端に少なくなった自分は、日々の身なりや服装にも無関心になり、悲しいかなますます外出を避けるようになってしまったのです。そんな11月後半のある日、ネットでコロナ下の欧米社会で急速に普及が進んでいるデリバリーロボットについて調べている時、偶然にもこのWhill C2を見つけたのです。
コロナかつ年末も近いという最悪の条件下であったため年内の入手は諦めていたのですが・・・、開発・発売元のWhillさんやケアマネさんの協力により、なんと2週間後には新品のWhill C2を手に入れられました。
昨年秋に発売されたばかりの最新型電動車椅子Whill C2
ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、ここからは昨年の秋に発売された今現在自分が利用している最新型電動車椅子Whill C2をご紹介していきます。
下の写真が、私が昨年12月からレンタルしているWhill C2の実物です。
このWhill C2は機能面でもこれまでの電動車椅子をはるかに超越していますが、先ほど写真でもご紹介した見た目など全く考慮されていない電動車椅子とは異なり、まるで欧米企業の商品ののようにデザイン性に非常にこだわっているのです。その理由は・・・、実はこのWhillを開発したのはもともとSONYの若手技術者だった人達なのです。しかも開発は、あのシリコンバレーで行われたそうです。皆さんも、このWhillのデザインは日本企業というよりだと感じませんか?
自分は昔の同僚に会うためにこの1か月ほどの間にこのWhill C2で、渋谷や六本木、銀座、丸の内などに出かけましたが、「車椅子に乗っている」という負い目や恥ずかしさは全く感じませんでした。
以下は、Whill C2とこれまでの電動車椅子の代表モデルの基本スペックを比較したものです。
1 | 商品名 | Whill C2 | タウニィジョイX PLUS+ |
2 | メーカー名 | WHILL(ウィル)株式会社 | ヤマハ発動機 |
3 | 寸法 (全長×全幅×全高) | 985×554×(745~945)mm | 1,015×595×880mm |
4 | 重量 (バッテリーを含む) | 約52kg | 30.1kg |
5 | 駆動方式 | 4輪駆動 | 後輪直接駆動 |
6 | タイヤ 前2輪 | 10inch オムニホイール | 6inch エアーレスタイヤ |
7 | タイヤ 後2輪 | 10.4inch ノーパンクタイヤ | 16inch |
8 | 最小回転半径 | 76㎝ | |
9 | 速度設定 | 4段階 | 5段階 |
10 | 速度 前進 | 1.0~6.0km/h | 1.6~4.6km/h |
11 | 速度後進 | 1.0~2.0km/h | 0.9~2.3km/h |
12 | 実用登坂角度 | 10° | 6° |
13 | 制動方式 | 発電制動・電磁ブレーキ | 発電制動・電磁ブレーキ |
14 | バッテリー | リチウムイオン(25.3V) | リチウムイオン(25V) |
15 | 充電時間 | 5時間 | 約4.5時間 |
16 | 連続走行距離 | 18km | 27km |
17 | 使用者最大体重 | 115kg(積載物を含む) | 75kg |
18 | その他(収納方法) | 容易に分解収納可能 | 折りたたみ収納可能 |
デザインのみならずこのように様々な違いがある2モデルですが、特に注目して欲しいのは駆動方式とタイヤ前2輪です。この2つがWhill C2のとんでもない性能を生み出しているのです。
実経験を基に、次の章ではWhill C2ならではの様々な特徴をご説明いたします。
自分の日常生活を一変させたWhill C2の性能
前述のスペック表の順番に沿っていろいろとご説明していきます。
寸法&重量
Whill C2の大きさは、普通の車椅子とほぼ同じかやや小さいぐらいです。そのため、我が家では写真のようなもの家の中の半畳強のちょっとした空きスペースに置いています。ただWhill C2は本体だけでも50kgもあり、かなり腕力がある人でも持ち上げることは不可能なので、利用者の繊細な運転技術が必要となります。( (^^) と言ってもWhill C2 は非常に操作がし易いので、ものの10分もすれば誰でも狭いスペースへの駐車?も出来るようになります。)
また、このWhill C2はものの1分程度で誰でも簡単に4分割(シート部分・前輪部分・後輪部分・バッテリー部分)出来るため、介護タクシーのようにリフトやスロープ板がついていない一般のタクシーでもトランクに積んでもらうことが可能です。(※分解&組立については後ほど詳しくご紹介します)
ただ、注意して欲しいことは、分割して後でも後輪部分は約20kgもあるのでタクシードライバーが高齢者や女性の時は注意してください。(と言っても、通常の車椅子や海外旅行スーツケースでも13~20kg程度の重さはあるので必要以上に遠慮する必要はないと思いますが・・・)
駆動方式&タイヤ
この部分がWhill C2の最大の特徴であり、またWhill C2ならではの細かい動きや悪路走破性を可能にしているのです。
まずは駆動方式ですが、車椅子にもかかわらずなんと4輪駆動方式を採用しているのです。そのため、このWhill C2は街中の至る所に存在している5cm程の段差なら難なく走破してしまうのです。また、公園などの未舗装部分や芝生の上などでも、舗装路と同じように走行することができます。車の運転をしていた方ならお分かりのように、4輪駆動なのでデコボコした悪路でもスタックすることもほとんどありません。
もう一つの大きな特徴がタイヤ構造です。普通の車椅子の場合、後輪が大きく前輪は非常に小さくなっています。そのため、自走式車椅子を使っていた頃は、小さな前輪部分が踏切の線路の凹にはまらないか、いつもびくびくしながら横断していました。
しかし、このWhill C2は4つのタイヤ全てが約10インチ(=直径約25cm)もあるため、踏切も安心して横断しています。また、前輪はオムニホイールという特殊な構造となっており、これがWhill C2ならではの細かい動きを可能としているのです。技術的な細かいことは分かりませんが、Whill C2の細かい動きはまるでお掃除ロボットのルンバのような感じです。
このオムニホイールと4輪駆動方式を車椅子に採用することで、Whill C2はその場でグルーと360°回転することができ、エレベーターの中などでも直径152cmのスペースがあれば誰でも簡単に一回転することができます。さらに、運転操作に慣れてくれば細かい切り返しを使うことで、直径120cmぐらいのスペースがあれば回転することができるようになります。
優れた走行性能と快適な乗り心地
このように最新技術満載のWhill C2ですが、ここで実際の街中での走行性能や乗り心地をご紹介します。
カタログ上での最高速度は、前進が6km/h、後進が2km/hとなっています。ただ実際には、最高速度は5km/hぐらいの気がします。また、実際に走る時には車のギアのように、走り出す前に1~4の4段階の速度レベルを選ぶ必要があります。参考までにそれぞれの速さの目安は以下の通りです。
■レベル1 → 1km/h程度しか出ないので、大きな段差を乗り越える時や細かい細かな切り返しをする時に利用
■レベル2 → 2km/h程度しか出ないので、主にスーパーや病院などの屋内の人の多い場所で利用
■レベル3 → 3~3.5km/h程度で人がゆっくりと歩くスピードなので、普段歩道などで移動する際に利用
■レベル4 → 5km/h程度と 大人の早歩きと同じくらいのスピードなので、路面の良く車がいない車道で利用
だいたいこんな感じです。なお、走行しながらボタンを押すことでこの走行レベルを変えることもできますが、この時にコントローラーそのものが動いてしまうことがしばしばあるので、高速走行中に走行レベルを変える時には十分な注意が必要です。また、レベル3や4の状態で回転動作をすると非常に早いので絶対やらない方がいいと思います。
次に登坂能力ですが、カタログ上は10°となっています。先日行われた有名な箱根駅伝のコース最大勾配でも7.4°と言われているので、このWhill C2は急坂であの箱根峠も余裕で登れるということです。通常、道路標識では「°」の表示ではなく「%」で表示されています。「登坂能力10°」を標識表示に換算すると・・・なんと「約18%」です。つまり、10m進むと1.8m高くなるような急坂を、このWhill C2は体重100kgの人を乗せて登ってしまうのです。もし、Whill C2の操作中によそ見でもして前に立っている人に追突でもしたら、追突された人は簡単に怪我をしてしまうと思います。Whill C2は非常に優れた介護用品ですが、反面操作をミスると簡単に人を傷つけてしまう凶器とも言えると思います。自分の場合、レンタルさせてもらう条件として対人対物保険への加入がマル必でした。街中で毎日のように利用している今となっては、当然のことだと思います。
非常に優れた充電器
このWhill C2の動力源は、多くの電動アシスト自転車と同様にリチウムイオンバッテリーです。Whill C2が採用しているものは今現在では最先端のものだそうで、充電時間(5時間)や走行距離(18km)です。さらには、本体からバッテリーを取り出さなくても電気プラグをさすだけで充電できるなど、日々の使い勝手の良さなど様々な面で自分は満足しています。
さらに、嬉しいことに充電する際に不可欠な充電アダプターが非常に軽くかつ小さいのです。重さはわずか464gで500mlPETボトルより軽く、サイズは155㎜ x 67mm x 37mmしかありません。外出時や旅行の時に持ち歩くことも全く苦になりません。
ちなみに計算上では、フル充電1回にかかる電気代は10円以下です。一方、自分が頻繁に利用する東急電鉄の場合18kmの運賃は260円です。そのため、最近は1,2駅程度(1~3km程度)なら電車を使わず、Whill C2を使って移動しています。結局、Door to Doorなら15分ぐらいしか変わらないので!コロナ感染のことも心配する必要もなく、またマスクなしで非常に快適です。
まあ、この蓄電領域は技術革新が目覚ましいので、ものの1~2年で倍ぐらいの性能のバッテリーが出てくるでしょうね。
その他の優れた点
まず一つは、乗り降りのしやすさです。下の写真のように乗り降りの際には、足置きが片手で上げることが出来たり、左右の肘掛けを立ち上げが出来たりするので、非常に安全かつ楽です。
二つ目は乗り心地の良さです。理由は後輪に付けられたサスペンションと厚く高品質なシートクッションの存在です。以前は、車椅子に30分も乗っていると腰やお尻が痛くなり外出がかなり苦痛でした。しかし、Whill C2にしてからは4~5時間乗っていても大丈夫です。ちなみに、このサスペンションはオートバイに採用されているオートバイに採用されるスイングアーム式というサスペンションだそうです。贅沢ですねぇ。
Whill C2の弱点
このように非常に優れた次世代電動車椅子とも言えるWhill C2には自分も非常に満足しているのですが、当然のことながら今後もっとブラシュアップした方がいいと思われる点もあります。それについて以下に整理してみました。
<今後Whill C2に改善して欲しい点>
- パーキングギア?ポジションの追加
自分はスーパーや書店に行った時にWhill C2で店内をうろちょろするのですが、自分が興味ある商品を見かけるとつい立ち止まってその商品を手に取ります。実はその時が問題なのです。できるだけその商品に近づき、コントローラーから手を離しWhill C2を止めます。そして、そのあとその商品を手に取ろうと身体を前に傾けます。この時に左手しか使えない自分は、それまでコントローラーを握っていた左手を前に出すのですが・・・、その際自分が着ている服の袖口がコントローラーに引っかかってしまうことがしばしばあります(コートなどの上着を着ているこの時期は多いです)。その結果、Whill C2自体は止まる前の速度ギアに入っているので、恐ろしいことにドライバーである自分の意思とは関係なく突然前に動き出してしまうのです。その結果、商品がある棚に突っ込んでしまうのです。
駅のホームで電車待ちしている時や交差点で信号待ちしている時にも同じようなことが何度かありました。止まった時は必ず電源を切ればいいのでしょうが、長年車を運転していた自分は信号で停止したからといってエンジンを切る習慣がないので、ギアを入れたままの状態にしてしまいます。きっと、自分のような人は多いのではないでしょうか?
基本的には機械を動かしている自分の不注意なのですが・・・、非常に危ないと思います。
是非ともコントローラーから手を離したら、自動的に自動車のパーキングのようなギアに入るようにし、再び動く時には新ためて速度レベルを選ぶようにしてください。Whillさん、宜しくお願い致します。 - センサーとオートブレーキのオプション装備
自分は方向転換をする時やショッピングセンターや公園などでは、小さな子供にぶつかってしまうのではないかと非常にびくびくしています。搭乗者の自分を入れると軽く100kgを超えるWhill C2。たぶん10kg程度の幼児など簡単に吹っ飛ばしてしまうと思います。さらに、巻き込んでしまうこともあると思います。すでに自動車に導入されているので技術的には問題ないと思うので、是非ともオプションでセンサーオートブレーキを導入してください。
自分の感覚では、Whill C2は非常に高性能なので、きっと運動反射能力が低下している高齢者ではかなり使いこなすのは難しいと思います。しかし、この機能があれば高齢者でも安心して利用するようになるのではなり、需要の裾野が広がるのではないでしょうか?
今回ご紹介したWhill C2は、自分のように片麻痺で自走式車椅子が使えず、介助者無しでの単独外出を諦めている方や女性をはじめ多くの腕力が弱い下肢障害者の方には絶対にお薦めです。皆さんの周りの人にこのような方がいましたら、是非ともこのWhill C2の存在を教えてあげてください。
一方、残念ながら認知症の症状がある方や身体の反射能力が極めて低くなってしまった一部の高齢者の方の利用は、ご本人も周りにいる人も危険なので絶対にお薦めしません。
























