海外には「マイナンバーカード」のようなものはあるのだろうか?

政治・行政

8年前の2015年にスタートした「マイナンバーカード」ですが、現在でも「他人の情報が登録されていた」「他人の口座が登録されていた」など、マイナンバーカードを巡るトラブルが絶えません

そんな中でふと「米国やイギリスなど海外はマイナンバーカードのようなものはあるのだろうか?」という疑問が湧いてきました。そこで今回は「海外政府の国民の個人情報管理状況」についていろいろ調べてみました。

そもそもマイナンバーって何?

「マイナンバー」は日本政府が様々な行政手続を効率的に行うために、日本に住民票を有するすべての人(外国人を含む)一人ひとりにつけた固有の12桁の番号のことです。つまり、行政機関では私「田中太郎(仮)」は「1234-9876-4567(仮)」という日本でたったひとつしかない個人番号で扱われているのです。まあ、現在のようにデジタル化が進んだ社会では当然でしょうね。

ただ、このマイナンバーというただの数字には国民一人ひとりの様々な個人情報が紐付けられており、その政府が管理する巨大なデータベースにこの個人番号を打ち込めば瞬時に紐付けられた情報がわかるのです。たとえばマイナンバーに各地方自治体が使っている住民番号を紐付ければ家族構成や生年月日、転居歴など住民票や戸籍謄本に記載されているデータ、免許書番号を紐付ければ警察庁が持っている交通違反&交通事故歴データ、健康保険証番号を紐付ければ厚労省が持っている保険利用の入院&通院歴や薬の利用歴データ、納税者番号を紐付ければ税務署が持っている所得や資産データ、これらがみんな政府職員がコンピュータにマイナンバーを打ち込めば瞬時にわかるのです。これ以外にも政府関連機関が持つ個人情報データはたくさんあります。それどころか政府がやる気になれば治安維持などを理由に民間企業の持つ個人の預金情報や学歴&職歴すら紐付けられる可能性もあり得るのです。ほんと怖いですね。

何故「一人ひとりのカード」にする必要があるのだろうか?

国民一人ひとりに番号付けして事務処理の効率化するのは政府の勝手ですが、何故政府はマイナンバーをカードにして国民一人ひとりに持たそうとしているのでしょうか?
その理由は、政府がマイナンバーカード制度により実現しようとしているサービスの内容と個人認証の方法にあります。そこでまずこの二つについて詳しく見ていきます。

〈参考:政府が公式発表している「マイナンバーカード制度導入の目的」
1.国民の利便性の向上
これまで、市区町村役場、税務署、社会保険事務所など複数の機関を回って書類を入手し、提出するということがありました。マイナンバー制度の導入後は、社会保障・税関系の申請時に、課税証明書などの添付書類が削減されるなど、面倒な手続が簡単になります。
2.行政の効率化
マイナンバー制度の導入後は、国や地方公共団体等での手続で、個人番号の提示、申請書への記載などが求められます。国や地方公共団体の間で情報連携が始まると、これまで相当な時間がかかっていた情報の照合、転記等に要する時間・労力が大幅に削減され、手続が正確でスムーズになります。
3.公平・公正な社会の実現
国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止、さらに本当に困っている方へのきめ細かな支援が可能になります。

相変わらず政府の言うことは抽象的ですね。その結果、国民は何年もの間「マイナンバーカード」に対して全く関心を示さずカードの普及率は低迷を続けたわけです。以下はデジタル庁が最近公表した「マイナンバーカード制度により実現しようとしている具体的なサービス」の代表的なものです。
マイナンバーカード制度により実現しようとしている具体的なサービス
・役所の窓口にいちいち出向いて行っていた様々な行政手続き(転出入、パスポート更新、確定申告時の必要書類入手などなど)が、オンラインでいつでもどこでも可能になる。
・コンビニで住民票の写し、印鑑登録証明書や課税証明書などが取得できる。
・医療機関や薬局でマイナンバーカードを健康保険証として利用することができる。
※免許証の代替化は検討中

上記のようなサービスを実現させるためには、どうしても正確に個人を認識することが必要になるのです。

【個人認証の方法】

個人認証には大きく分けて以下の3種類があります。

1.IDとパスワードによる記憶認証
.ICカードや各種メモリメディアを利用した物理認証
⒊.身体的特徴を利用する生体認証

今回日本政府が採用したのは2番目の物理認証方式なので、国民一人ひとりに「マイナンバーカード」を持たせようとしているのです。ただ、この物理認証は手軽に利用できる一方で、盗難や置き忘れの危険性が常について回るのです。そのため最近は、この物理認証の代表格であるクレジットカードなどでは、認証精度を高めるために利用する際に「記憶認証方式も併用=暗証番号入力」も求められます。日本の「マイナンバーカード制度」でもクレジットカードと同じように「暗証番号」の方式を併用したのです。これが「マイナンバーカード」発行の際に「自分の決めた暗証番号を忘れている人が続出」し、大混乱を巻き起こしたのですが・・・。最後の生体認証は指紋や顔や声などの個人の身体の一部を利用する方法でIT技術の進化とともに増えてきています

海外には「マイナンバーカード」のようなものはあるのだろうか?

結論から言うと「ほとんど先進国では20-30年ほど前から存在している」のです。日本では長年にわたり、自分の身元を証明するものはといえば・・・運転免許証かパスポート、健康保険証でした。しかし、免許証やパスポートは持っていない人も多く、また健康保険証には顔写真もなく身分証明証としては不完全です。つまり日本には国際的に通用する正式な身分証明書を持っていない人がたくさんいるのです。いったいなんて国でしょう!行政の怠慢が作り上げた完全に時代遅れの国家なのです。以下は主要な民主主義国の個人認証システムの現状です。

アメリカ

アメリカには、社会保障番号(SSN=Social Security number)というアメリカ合衆国の全ての市民、永住権者、一時労働者に発行される9桁の個人認識番号があり、税金の支払いや社会保障サービスの受給などに使われてます。もともとは大恐慌時代の1936年にニューディール政策の一環として戸籍という制度がないアメリカで、社会保障の受領者を特定するために生まれました。当初は番号を持っていない人も多かったが、1990年には法律が変わり全国民が持つようになったが、未だにID的なものはありません。

イギリス

イギリスには国民保険番号(NIN=National Insurance Number)という16歳以上の全ての国民に発行される9桁の個人認識番号があり、社会保障と税金の支払いなどに使われてます。この認証番号はもともとは社会保険料の納付、給付金の請求等を記録することを目的に1948 年に導入されたものでしたが、2006年にはテロ対策や不法就労対策を目的に、指紋や顔写真のデータと共に住所/氏名をデータベース化し、それに基づいてIDカードを発行し携帯を義務付けたのですが、10年ほど前に政権交代の影響もあり費用対効果が高くないことや、個人情報の一元管理によるプライバシーや市民的自由の侵害が危惧されることを理由にIDカード法案は廃止され実現されていません。

代わりに2016年からは、電子的に本人認証を行えるデジタルIDを本人認証に利用する仕組みを採用しています。具体的にはイギリス政府が運用する「GOV.UK Verify」というサイトにアクセスし、「免許証などの身分証と一緒に写った写真を送る」、「自分しか知らない質問に答える」、「銀行口座にオンラインでサインアップする」、などの方法で本人認証を行うと簡単にデジタルIDが発行され、そのIDを使って政府の各種サービスサイトなどへのログインが行うという仕組みです。しかし、政府は2020年までに2500万人のユーザー数を目指していたのですが、予測を大幅に下まわり700万人強のユーザーしか獲得出来ず現在も奮闘中だそうです。

インド

インドには国民の99%以上が登録しているアーダール(Aadhaar)カードという12桁の個人識別番号とIDカードがあります。このアーダールカードは2009年にプロジェクトがスタートしたのですが、さすがデジタル先進国?インド。10年以上も前のスタートなのに、なんと生体認証データ(指紋や虹彩スキャン)も関連づけられているのです。既に現在では各種公的サービスの提供だけではなく銀行口座の開設といった民間企業のサービスなどにも使われ、インドで生活していく上で必要不可欠なものとなっています。

韓国

韓国には、朴大統領時代(軍部独裁政権)の1968年に、北朝鮮のスパイを摘発する必要性から生年月日と性別、出生地などの情報を元に13桁の居民登録番号というものが全国民に付けられ顔写真と右手親指の指紋入りの身分証明カードが発行されました。この番号とカードは、現在では税金や医療、教育などの公的事務にとどまらず、銀行業務や就職活動など多くの民間企業の事務処理でも使用されています。しかし、日本のマイナンバーカードと同じように認証精度を高めるためにIC チップ入り電子住民カードへの切りかえが検討がされましたが、市民団体など多数の反対により実現していません。

ドイツ

ドイツには、ドイツで住民登録をしている人すべてに割り当てる「Steuer-ID(税務識別番号)」という11桁の個人識別番号があり、Steuer-IDカード(ICカード)が発行されています。これは税務の目的で2007年から導入され、番号は子どもにも割り当てられ生涯変わることはありません。ただ、ドイツでは1970年代に行政事務の効率化を目的として行政分野で共通して個人を識別する番号の導入(連邦住民登録法案)が検討されたが、国民のプライバシー侵害の懸念が大きく成立に至らなかったという歴史があり、その結果今では行政分野ごとに異なる番号(医療被保険者番号、年金保険番号、介護保険番号等)がありそれらを相互に紐付けるようなことはしていません。

フランス

フランスには、「numéro d’inscription au répertoire(社会保障番号)」(NIR)と呼ばれる15桁の国民識別番号があります。これは社会保障番号としても機能し、フランス生まれの人は出生時に、外国生まれのフランス市民は市民権取得時に当てられます。ただ、ドイツ同様にフランスでも1970年代に行政事務の効率化を目的として行政分野で共通して個人を識別する番号の導入(SAFARIプロジェクト)が検討されたが、国民のプライバシー侵害の懸念が大きくプロジェクトは中止されるという歴史があり、その結果今では行政分野ごとに異なる番号(税務登録番号、国民健康識別子等)があり、それらを相互に紐付けるようなことはしていません。しかし、個人認証や様々な公共サービスを受けるための顔写真入りの「電子保険カード(Carte Vitale)」と「国家身分証明カード(CNIE)」、及び「日常生活カード(CVQ)」は提供しています。

このように大半の先進国では何らかの形で国民識別システムが存在しますが、一部の国ではプライバシーの保護、行政上の理由、文化的な背景などから未だ導入をしていない国(オーストラリア、ニュージーランド等)も見受けられます。

いずれの国でも「国に多くのことを望まない(大きな政府を望まない)自立した人は反対する」だろうし、逆に「何でもかんでも政府にお願いする甘えた人は多少の自己犠牲も受け入れる」でしょうね。いつまでも、マイナンバーカード制度のように政府がのらりくらりやっていると日本そのものを見捨ててしまう日本人も増えるのでは・・・。

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