文科省によると,2019年度の私大の平均年間授業料は約90万円(=月額では約75,000円)で,過去最高を記録したそうです。国会でも「高等教育の無償化」が議論されていますが、もともと世界的に見ても「授業料が高い」ことで有名な日本の大学。
そこで今回は、今回は奨学金制度や大学の授業料無償化などについていろいろ調べてみました。
奨学金制度とはどんな仕組み?
奨学金制度は、日本だけではなく世界各国にある社会的仕組みで、経済的理由で修学が困難な優れた学生に経済・社会情勢等を踏まえ、学資の貸与または給付を行う社会制度です。
この「貸与型」の奨学金と「給付型」の奨学金の違いは・・・、
貸与型奨学金は、在学中は返済の義務はありませんが、卒業後には返済しなければならない奨学金です。ただ、貸与型奨学金の金利水準は、民間の教育ローンなどと比べて大幅に低いのが特徴です。
一方の給付型奨学金は、返還義務がない奨学金です。しかし、「審査基準が厳しい」、「成績上位者のみ」などの厳しい条件が多いのが特徴です。
ただ、現在の日本の公的奨学金には、この「給付型奨学金」がないのが現状です。
OECD主要国の国公立大学授業料無償化、給付制奨学金の状況(データ出典:OECD)
一方、海外の先進国の高等教育への公的サポートの現状を見てみると・・・、なんと日本は大学教育に関する公費支出(対GDP割合)がOECD加盟国中最下位なのです。
一般的に、「大学の年間学費」と「公的奨学金/ローンの整備状況」から世界各国を見てみると、次のグループに分けることが出来ます。
①グループ:授業料が高いが、奨学金が充実しているグループ
・・・アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど
②グループ:授業料が高く、奨学金も充実していないグループ
・・・日本
③グループ:授業料が安く、奨学金が充実していないグループ
・・・大陸ヨーロッパ⇒スペイン、イタリア、スイス、フランス、ベルギーなど
④グループ:授業料が安く、奨学金も充実しているグループ
・・・・北欧⇒ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンなど
日本は、本当にひどい状況ですね。海外では「教育にカネを使わない国ニッポン」としてよく知られているそうです。
次に、具体的にOECD主要国の高等教育行政の現状をみてみました。
■ノルウェー
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:100%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→全学生が奨学金を受給できる。給付額は、一人暮らしの場合は月額111,200円、親と同居は月額17,300~47,900。障害のある学生などは追加あり。平均額は年約130万円。
羨ましいなぁ・・・
■フィンランド
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:ほぼ100%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→学生自身の収入が約167万円以下の学生は奨学金(月額7,800~47,100円)を受給できる。一人暮らしの学生には家賃補助もある。
■スウェーデン
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:67.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→社会経済的状況を要件とする奨学金があり、給付額は月額43,600円(上限額)。取得単位数や学生自身の収入などに応じて減額される。
■トルコ
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:30.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→夜間課程のみ授業料(12,600~29,600円)あり。社会経済的状況を要件とする奨学金(年額13,800~27,500円)と成績を要件とする奨学金(年額9,800~19,700円)がある。
■ドイツ
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:25.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→2008年までに7州で有償となったが、再び無償化が広がり、2014年冬学期以降、全国で原則無償に。社会経済的状況を要件とする奨学金と成績を主な要件とするものがある。
■ギリシャ
・授業料・年額(円):無償化
・給付制奨学金:有、受給学生割合:1.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→憲法により高等教育を含む全段階の教育が無償とされる。成績を主な要件とする奨学金があり、給付額は一律年額206,000円。成績優秀者への追加給付や住居手当もある。
■フランス
・授業料・年額(円):26,500
・給付制奨学金:有、受給学生割合:34.7%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→登録料と健康診断費がある。大学に次ぐ規模のグランゼコールの負担は年額80,000~1,400,000円。社会経済的状況を要件とする奨学金(最大年額777,600円)がある。
■アイスランド
・授業料・年額(円):68,100
・給付制奨学金:無、受給学生割合:0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→授業料でなく管理登録料(年額68,100円、2014/15年)がある。学生の82%が国公立に、18%が授業料がある公設私立に通う。国による給付制奨学金はない。
■スイス
・授業料・年額(円):89,900
・給付制奨学金:有、受給学生割合:7.2%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→連邦政府の補助による社会経済的状況を要件とする奨学金を各州が運営。左の値は平均受給率。この他、世帯収入などを要件とする家族手当(月額最低27,000円)がある。
■ポルトガル
・授業料・年額(円):88,600~149,900
・給付制奨学金:有、受給学生割合:18.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→社会経済的状況を要件とする奨学金(年額149,900~797,200円)と成績を主な要件とする奨学金(一律年額339,000円)がある(2014/15年度)。左の値は前者のみ。
■スペイン
・授業料・年額(円):155,800
・給付制奨学金:有、受給学生割合:27.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→中央政府、州、地方自治体などにそれぞれ奨学金がある。中央政府には社会経済的状況を主な要件とする奨学金(年額約3~82万円)があり、平均給付額は320,900円。
■イタリア
・授業料・年額(円):167,800
・給付制奨学金:有、受給学生割合:8.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→社会経済的状況を主な要件とする奨学金と成績を主な要件とする奨学金がある。前者の給付額は年額270,300~717,100円(2014/15年度)。
■オランダ
・授業料・年額(円):267,600
・給付制奨学金:有、受給学生割合:76.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→標準修業年限の間、30歳未満の全学生に、月額14,100~39,200円を給付。世帯収入や親と同居か一人暮らしかなどの状況に応じて、月額33,600~36,500円の追加がある。
■オーストラリア
・授業料・年額(円):408,600
・給付制奨学金:有、受給学生割合:25.2%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→①24 歳以下が対象の若者手当、②25 歳以上が対象のAustudy、③先住民が対象のABSTUDYの連邦政府の3 つの主要な奨学金は、いずれも社会経済的状況が要件。
■ニュージーランド
・授業料・年額(円):411,000
・給付制奨学金:有、受給学生割合:20.0%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→18~65歳を対象とし、社会経済的状況を要件とする奨学金がある。給付額は、世帯年収や親と同居か一人暮らしかなどにより決まり、平均給付額は年額594,300円。
■イギリス
・授業料・年額(円):出世払い
・給付制奨学金:有、受給学生割合:48.7%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→4つの地域で異なる。スコットランドは無償。イングランドは平均で1,523,200円で出世払い。社会経済的状況を主な要件とし、年額最大590,600円の奨学金がある。
■韓国
・授業料・年額(円):561,800
・給付制奨学金:有、受給学生割合:32.6%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→給付制奨学金には、所得水準に応じて国から給付されるⅠ種と国から補助金を受けた大学が運営するⅡ種がある。「授業料半額」の公約のもとに給付制奨学金を急速に拡充。
■カナダ
・授業料・年額(円):570,800
・給付制奨学金:有、受給学生割合:35.1%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→主要な連邦政府の奨学金は社会経済的状況を要件とし①低所得世帯に月額23,900円②中所得世帯に月額9,600円を給付する。家計の教育資金積立への支援制度もある。
■アメリカ
・授業料・年額(円):879,800
・給付制奨学金:有、受給学生割合:47.6%
・国公立大学などの授業料や給付制奨学金制度の概要など
→授業料の額は、4年制国公立機関における州内出身者の平均。奨学金の値は、連邦政府の奨学金の4年制機関における受給率。平均給付額は465,200円(2011/12年度)。
親の負担がどんどん大きくなる一方の日本
下の表は、世帯主が40~50代の世帯(=大学生の親世代)の年間所得の中央値と国公私立大学の年間授業料の1995年から2015年までの推移を見たものです。
これを見るとわかる通り,「親世代の所得」はピーク(96年)の752.4万円からどんどん下がり続け、2015年にはピーク時の115万円の減で85%水準の637.7万円にまで減ってきています。
その一方で,「大学の授業料」は年々上昇しており、1995年と2015年を比べると,国立は8.8万円,公立は9.7万円,私立は14.0万円の増、約20%増です。
きっと少子化の時代の中で、子どもの数が減少し続け、結果的に大学生の数も減り、授業料アップを続けなければ大学を維持していけなかったのでしょうね。
その結果、親世代の所得に占める大学の授業料の割合は、1995年には6-9%だったのが、2015年には10-14%に上がっているのです。
近年話題になっている大学生のブラックバイトや奨学金返済地獄の背景には,このような「追い詰められた親世代」の事情があるのです。
先進国である日本で、こんなことがあっていいのでしょうか?
日本こそ早急に高等教育の無償化をするべきでは?
教育基本法第3条では「教育の機会均等」について以下のように定めていますが、これは初等・中等教育のみならず、大学を含む高等教育にも適用されます。
第3条 (教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。
法律によれば、たとえ大学のような高等教育でも、子どものが家庭の経済条件で「教育を受ける機会」が左右されることがあってはならないのです。つまり、「家の経済事情が苦しいので大学に行けない」ということがあってはならないのです。
数年前から、国会や政府でも、この問題がようやく認識されてきたようで,大学の授業料無償化について盛んに議論されています。これからますます少子高齢化が進み、様々な問題が吹き出てくる日本ですが、本当に日本の将来を考えるならば、早く大学の授業料無償化を実現するべきではないでしょうか?
安倍さんもいつまでも「桜を見る会問題」などの不毛な議論をやめ、日本の将来をもっと長い目で真剣に国家施策を議論して欲しいものです。