先日、東京の多摩地区で「救急車がドライバーの居眠り運転で事故を起こす」という信じられないようなニュースが流れました。大手マスコミの報道記事は以下の通りです。
“「救急車 居眠り運転で事故か 隊員は17時間連続対応」
NHK、2023年1月16日先月、東京 昭島市の国道で救急車が中央分離帯に衝突して横転し、救急隊員3人が軽いけがをする事故があり、警視庁は居眠り運転が原因とみて調べています。都内では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で救急搬送が増えていて、隊員たちはおよそ17時間連続で現場で対応していたということです。
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車内のドライブレコーダーには、運転席と助手席の隊員が居眠りをする様子が写っていたほか、後ろの座席の隊員も眠っていたということです。”
どうやら事故を起こしたのは12月29日の午前2時ごろで、搬送者を送り届けた帰り道だったようです。また、この隊員たちは前日の朝9時から事故までのおよそ17時間の間に7回の出動で、ほぼ休みなく働いていたそうです。
様々な御意見があるとは思いますが、自分は「絶対にあってはならないこと」だと感じたので、今回は「日本の救急搬送の現状」について海外と比較しながら色々調べてみました。
救急車は全国でたった6,300台、年間600万件以上の出動要請に対応!
今回調べてみて 一番びっくりしたのは、救急車の数が想像以上に少ないことでした。(以下のデータの出典は消防庁)
なんと、2018年4月1日現在、全国で6,329台(対前年比58台増)しかないのです。つまり 国民に2万人に対して1台 だけしかないのです。
一方、救急車の出動要請は、2020年で年間 619万件もあるそうです。つまり、 1台あたり1日3回弱出動していることとなります。自分にはこの数字が多いのか少ないのかは判断わかりできませんが、この出動要請の件数は下のグラフのように年々増えているそうです。なお、消防庁によれば令和2年に急減した理由としては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う衛生意識の向上や不要不急の外出自粛といった国民の行動変容により、急病、交通事故及び一般負傷等の減少したことなどが考えられるそうです。
冷静に考えると、「日本の人口自体は、ほとんど変わっていない」のに救急車の出動要請件数は、ここ20年間で約5割近くも増えているのです。この増加の原因としては、「高齢者の増加」に加え、「非常識な救急車要請の増加」があるそうです。下のグラフは「ここ20年間の世代別救急車搬送者数」です。改めて高齢者の急増には驚かされると同時に、「まだまだ高齢化が進み、救急車への出動要請が増加する」と思うとぞっとするものがあります。
近年では119番通報のうち約半数は救急搬送など必要のない人からの電話!
日本人なら日本国内で救急車を呼ぶ緊急通報番号は119番であることは誰もが知っていると思いますが、実際に119番をかけたことのある人はごく少数の人だけだと思います。しかし、最近は世間常識に欠けた一部の人たちからの緊急性や必要性のない救急車要請通報が急増し、救急隊員をいたずらに疲弊させたり、本当に必要な人のところに救急車を送れないという事態が多発しているそうです。
第20回日本臨床救急医学会・学術集会(2017年)で学会員である医師や看護師を対象としたアンケートによると・・・
「日常業務で経験する救急車による搬送で必要性が低いと感じる事例の割合は?」という質問では、医師で3割、看護師で5割が「救急車による搬送の必要性が低い患者さんが多い」と回答したそうです。
また、救急車で搬送されてきた人の119番通報した理由の中には、「救急車を呼べば待たずに診療が受けられるから」とか、「病院に行く予定だが、自分で行くとタクシー代がかかるので救急車を呼んだ」とか、「眠れなくて、誰かに話を聞いてほしくて救急車を呼んだ」などといった信じられないものもあったそうです。このような馬鹿げたことが起きているのは、現在の日本法律では119番で緊急搬送の要請を受けたらどんな軽傷でも消防サイドからは断ることが出来ないとなっているからだそうです。
参考までに消防庁のデータでは、令和3年中の救急車により搬送された人の傷病程度は、軽症(外来診療)が44.8%、中等症(3週間以内の入院診療)が45.2%、重症(長期入院)が8.5%だそうです。また、、2014年の1年間に10回以上救急車を要請した人は全国で2,796人おり、なかには年間50回以上も救急車を呼んでいる人も250名ほどいるそうです。それらの「頻回利用者」だけで年間52,799回もの救急車出動要請をしているという信じがたい実態があるそうです。
自分はこの章を書きながら、「確かに救急車を呼ぶことは、昔から誰でもが利用できる公共サービスですが、なんか最近は自己中心的な人が増え、日本全体が“モラル低下”が進んできているなぁ」と感じました。
皆さんはどう思いますか?
救急車の1回の出動にかかるのコストは約45,000円!
では、119番通報を受けて救急車が1台出動するといったいどの位のコストがかかるのでしょうか?
消防庁によれば、「救急隊員の人件費、救急業務費(救急隊の運営・資機材整備費、救急車の維持費に加え、応急手当講習の普及業務に関する委託費や、救急救命士の研修費などを考えると、救急車1台1回の出動にかかる費用は約4万5千円だそうです。つまり、現在でも年間600万回の出動なので、45,000×6,000,000=約3,000億円もかかっており、しかもその原資は全て私たちの税金なのです。
海外では救急車は有料が普通、また一部民間委託も常識!
今現在、日本では一部のケース(医者が救急車に同乗し運搬中に治療を行う場合のその治療費は有料)を除いて救急車の利用は日本人でなくても日本国内にいる人なら誰でも無料です。しかし、海外の多くの国では救急車を呼ぶとかなり高額な利用料(多くの国では州や都市ごとに料金が異なる)がかかるのが普通です。
≪海外の主な都市での救急車料金≫
都市(国) | 料金 |
ニューヨーク | 公営と民営があり、いずれも呼ぶだけで約5万円、病院までの搬送費用も入れると通常15万円程度 |
パリ | フランス全土をネットワークで結ぶ公営の医療援助体制があり、全国共通番号(日本の119のようなもの)に電話を掛けると、救命装置付き救急車に医師が同乗して駆けつける。30分あたり約6,500ユーロ(1万円弱)の料金がかかるが、後日保険で精算される。 |
フランクフルト | 2万2,000~7万3,000円程度 |
シドニー | 基本が約1万1,000円で、走行距離1キロメートルにつき約300円追加 |
北京 | 走行距離32キロメートルまでは約1,700円、以降1キロメールにつき約80円が加算 |
ローマ | イタリアは公営の救急車が無料(民営もあり、こちらは有料)ですが、軽症と判断された場合、救急車が自宅に来るのは他の重症患者の搬送が終わってからになる。 |
ロンドン | 公営と民営があり、公営の場合は無料。ただ、事前にかかりつけ医へのGP登録が必要でかつ救急病院の数が少ないため、命にかかわる症状でない場合には対応も迅速ではなく待ち時間が長い。 |
シンガポール | 事故の場合は無料、病気の場合は救急搬送されて後医師から「緊急ではない」と判断されると約5,000円~25,000円ほどの救急搬送料金を請求される |
このように海外の大半の国では、救急車は有料でかつ民間での運用も認められているのが普通です。いつでも、だれでも、どんな症状でも無料で運んでくれる日本のような救急搬送システムは非常に珍しいのです。
しかし、ここまで見てきた日本の「緊急搬送の実態」と日本の「さらなる高齢化の進展」や「財政状態」を考えるならば、自分は政府は一刻も早く「救急車の有料化」と「出動決定に関する法律の改正と共に」「民間委託」を行うべきだと思います。当然低所得者に対する救済措置も用意して・・・。個人的には、「一生の間に何度も利用するとは思えないので、このシステムを維持・ブラッシュアップしていくためにも5万円ぐらいはしょうがない」のかなぁと思いますが。皆さんはどう思いますか?
ちなみに今から8年も前の2015年には財政制度等審議会が「軽症の場合の有料化を検討すべき」と財務省に提言していたようですが、何故か当時の安倍政権はこの提案をほとんど無視したようです。
今回の事故をきっかけに国会で議論して欲しいものですね。